レバーレスコントローラーに求められる条件は、決して単純ではありません。
- 軽さを求めれば安定性が揺らぐ
- 安定性を優先すれば重量が増える
- 携帯性を高めれば、手のひらを置くスペースが不足する
第2回で触れたように、筐体設計には常にトレードオフが存在します。その中で重要になるのは、単一の性能を最大化することではなく、プレイ体験としてのバランスを整えることです。ZENAIMのアーケードコントローラーの開発は、まさにそのバランスを探るプロセスでした。
私たちはまず、プレイ中に発生する入力ノイズの原因を分解しました。
「どのような要素が集中を乱すのか?」
「プレイヤーはどの瞬間に補正動作を行うのか?」
その結果、ボタン性能だけでなく、筐体の構造そのものがプレイ体験に大きく影響していることが見えてきました。
1. ボタン配置

レバーレスコントローラーでは、ボタンレイアウトが指の動きの効率に直結します。配置が狭すぎれば押し間違いが増え、広すぎれば移動距離が増えます。
ZENAIMでは、プロプレイヤーとのセッションを通じて配置の検証を重ねました。さまざまなレイアウトを試作し、議論を重ねた結果、完成品としては追加ボタン穴を設けないシンプルな配置に決定しました。不要な要素を削ぎ落とし、プレイ中の判断を迷わせない構造にするためです。
2. 筐体のサイズと形状

レバーレスコントローラーは、両手のひらを置いた状態で操作するデバイスです。そのため、ボタン配置だけでなく、手のひらを支える平面の大きさや縦横比も重要になります。
「両掌を自然に置いたとき、余白が不足しないこと」「長時間のプレイでも姿勢が崩れないこと」を基準に、筐体サイズを【幅:362mm、奥行:230mm、高さ:39.25mm】に決定しました。これは、ZENAIMが考える、手にフィットするこだわりの寸法です。
3. 素材の選定

金属素材の筐体は高い剛性を持ちますが、重量や触感、携帯性の面では課題もあります。ZENAIMでは、「強度」と「軽さ」のバランス、そして「手触り」を考慮し、筐体素材として樹脂を採用しました。
特に天板に関しては、「PMMA樹脂(アクリル)」を採用しています。「強度」「手触り」「表面の美しさ」そしてなにより、アーケードコントローラーを自作されるようなコントローラー愛にあふれる格ゲープレイヤーにとって、最も馴染みのある素材を製品に活かしたかったという思いがあります。
4. 強い打鍵時の衝撃や共振も検討した構造

レバーレスコントローラーは、激しい入力が繰り返されるデバイスです。もし天板に共振が発生すれば、ボタンが意図せず動いてしまい、誤入力が発生します。そこでZENAIMでは、開閉構造にも慎重な判断を行いました。
近年のコントローラーでは、マグネット式の開閉構造が採用されることもあります。メンテナンス性の面では便利な仕組みですが、激しい入力による衝撃で筐体がわずかに動く可能性もあります。
ZENAIMの筐体では、こうしたリスクを避けるため、ネジ止めによる固定構造を採用しました。柱の配置や数を最適化することで、激しい入力にも耐える剛性を確保しています。
5. 軽量でも安定したグリップの実現

膝置き・机置きの位置ズレは、プレイの集中の妨げに直結します。だからこそ、滑り止めによるグリップ力とガタつきの防止は重要です。
底面全体にシート状の高摩擦材を採用し、軽量ながらも安定したグリップ力を実現しました。
6.持ち運びの利便性も設計

対戦会や大会では、プレイヤーがコントローラーを持ち歩く場面も多くあります。そのため、筐体には自然に握れる取手形状を設け、移動中の扱いやすさも考慮しました。
INPUT ARCHITECTURE(インプットアーキテクチャ)
このように、ボタンレイアウト、筐体サイズ、素材、構造、携帯性など、複数の要素を一体として設計することで、プレイ体験は大きく変わります。
ZENAIMでは、この総合的な入力環境の設計思想を「INPUT ARCHITECTURE(インプットアーキテクチャ)」と呼んでいます。

これは単なるハードウェア設計ではありません。プレイヤーの集中を妨げる要素を排除し、入力そのものを整えるための設計思想です。
そして、その先に目指したのは、デバイスの存在を意識しないほど自然なプレイ体験です。
次回はいよいよ最終回。ZENAIMが目指した「プレイヤー本来の力(PURE PERFORMANCE)を引き出すデバイス」とは何か?
その思想を、改めて整理していきます。



